バタフライ・エフェクト ケンドリック・ラマー伝 / 著者 Marcus J. Moore
Book Review
バタフライ・エフェクト ケンドリック・ラマー伝
著者
Marcus J. Moore
訳者
塚田桂子
出版社
(株)河出書房新社
ページ数 / サイズ
343ページ / 13 x 2.6 x 18.9 cm
発売日
2021/11/30
定価
2850円(税抜き)
わずか3作でHip-Hop界のKingにまで上りつめたKendrick Lamarのこれまで の半生を描いた評伝。
冒頭、第一章では2014年(56回)のGrammyのBest Rap Performence/AlbumをMacklemore and Ryan Lewisが受賞し、MacklemoreがTwitterで”Kendrickがとるべきだった”と謝罪したエピソードから、アメリカ音楽界における人種差別問題をあぶりだしている。
そのあと、友達や親戚が殺害されるような劣悪な環境でも、両親に恵まれ、まともに育ち、TDEと契約するまでが第二章。
Kendrick Lamarをアーティスト名にして、本格的活動を始める第三章以降の活躍は皆が知るところであり、作品としては”Section 80”から”DAMN”までがカバーされているが、特にTo Pimp A Butterflyまでの急角度でのし上がっていくあたりが詳しく語られている。また、Good Kid, M.A.A.D Cityに関しては、地元の仲間が不幸になっていく半面、
自身が成功していくことへの葛藤であったり、To Pimp A Butterflyに関しては、南アフリカを訪れ、自身の出自を再認識したことや、本人の意思とは無関係に”Alright”がBLM運動のアンセムになっていく様などが描かれている。DAMNに絡めては、トランプの大統領就任に対する無力感なども著されているが、特にKendrickの諸作との関りは薄く、BLMについての記述も含めて、このあたりは、アフリカンアメリカンである筆者の主張が垣間見える。ただ、そこまで押しつけがましくはないので、気にならない範囲ではある。
また、Terrace Martinが、思ってた以上に、(Sounwaveと同じくらいに)、Kendrickの制作パートナーとして重要人物だったことも判ったが、これについては初めて知ることであった
全体的に、徹底した取材によって、様々な出来事や事実関係が克明に著されていて、結果、300ページ以上になっており、この手の本とは違って、字も小さいので相当に読み応えがある。塚田さんによる脚注も丁寧で、たくさんの登場人物の整理も役立つと思う。